【サル痘と天然痘(痘そう)】同じ病気じゃないの?症状や感染経路は?

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欧州やアメリカ大陸でのサル痘の感染拡大がネットニュースなどで話題になっていますね。

2022年6月現在で感染者は2千人を超え、シンガポールや韓国でも感染が確認されるなど拡大が続いており、動向が気になるところです。

サル痘は西アフリカやアフリカ中部に多いウイルス性感染症なのですが、このところ欧州やアメリカ大陸などを中心に感染が拡大していることから

「いつ日本国内に感染が拡がってくるかわからない」

と不安に感じている方もいるのではないでしょうか。

また、サル痘の症状は天然痘の症状と臨床では区別が困難なほど似ていることもあり、天然痘の一種と思われがちです。

どちらもオルソポックスウイルス属の一種であることに違いありませんが、サル痘と天然痘は、感染源・感染経路の異なる別の感染症です。

天然痘は2022年現在、感染の心配はまずありませんが、本記事ではサル痘と天然痘それぞれの症状や感染源、感染経路、治療法について解説していきます。

目次

サル痘とは

サル痘とは、オルソポックスウイルス属の一種であるサル痘ウイルス感染による急性発疹疾患のことを言います。

実験動物として祭主されたサルの一部が感染し発症していたことが最初の発見契機であったことから、サル痘と呼ばれるようになりました。

ですが、本来のウイルスの自然宿主は土着のリスやネズミなどのげっ歯類(げっしるい)と現時点では考えられています。

それらのウイルスを保有している動物から直接ヒトに、又はサルを介して感染します。

症状は発熱と発疹が主で、多くの場合2~4週間で自然に回復しますが、小児で重症化や死亡例の報告もあり、軽視できるものではありません。

これまでは西アフリカやアフリカ中部に保有動物が多く生息しており、発症も同地域がほとんどで、流行地以外での発症事例は稀でした。

昨今の欧州やアメリカ大陸での感染拡大により、科学者たちから

「サル痘をアフリカ系のものだと呼び続けることは不正確かつ差別的だ」

との指摘と新たな名称として「hMPXV」が挙げられていますが、名称の変更についてはWHOの判断次第となっています。

天然痘(痘そう)とは

天然痘とは、サル痘同様にオルソポックスウイルス属の一種である天然痘ウイルスによって引き起こされる非常に感染力の強い急性発疹疾患です。

その死亡率は30%にも及びますが、現在自然感染は根絶されているとされています。

天然痘ウイルスは少なくとも「大痘そう(古典的天然痘)」という毒性の強い株と「小痘そう(alastrim)」という毒性の弱いものの2つのウイルス株があます。

天然痘と人類の歴史は古く、1万2千年以上前から存在していたと言われており、数多くの死者を出してきました。

過去の記録的な的な流行例では、1663年にはアメリカ国内の人口4万人程度の部落で流行し、生存者はわずか数百人だったそうです。

1770年のインドでの流行の際には3百万人が死亡したという記録もあります。

1796年、イギリスでは4万5千人もの人が天然痘の為に死亡していたと言われています。

この年にエドワードジェンナーというイギリスの医学者が「種痘(しゅとう)」という予防法を発表。

以降、この「種痘」の普及により発症数は減少していき、WHOは1980年5月に天然痘の世界根絶宣言を行いました。

それからこれまでに世界中で天然痘の発症者は確認されていません。

ちなみに、日本国内でも明治時代に2~7万人程度の感染流行(死者5千~2万人)が6回、第二次世界大戦後の1946年(昭和21年)には1万8千人程度(死者3千人程度)の感染流行がありました。

その際、緊急接種(種痘)などが行われて沈静化し、1956年(昭和31年)以降は国内での発症は確認されていません。

このように2022年現在では前述の通り天然痘は根絶したとされており、自然感染の心配はまずありません。

ですが、研究用に保管されている天然痘ウイルスや、人工合成された天然痘ウイルスを用いたバイオテロの可能性が懸念されています。

症状と感染経路

サル痘と天然痘の症状と感染源・感染経路について解説していきます。

サル痘の症状

サル痘の潜伏期間は5~21日(平均12日)です。

初期症状は発熱、頭痛、悪寒、倦怠感、背中の痛み、筋肉痛、リンパ節の腫れなどです。

発熱後1日~3日程度で特徴的な発疹が顔から現れ全身に広がります。

顔以外では特に手のひらや足の裏にできやすく、口の中や性器、眼にも発疹が現れることがあります。

発疹が現れてから10日程度でかさぶたになり、かさぶたが消えるまでは3週間程度かかります。

多くの場合は2~4週間程度で自然治癒します。

臨床的には天然痘と区別するのが困難ですが、天然痘と比べると致死率は低く、数%~10%程度と報告されています。

感染源

サル痘ウイルスの自然宿主は主にアフリカに生息するリスやネズミなどのげっ歯類と考えられています。

2003年にはアメリカ国内でペットとして輸入されたプレーリードッグから感染が拡がったこともありました。

その名に反して、非ヒト霊長類(サルなど)は自然宿主ではありません。

感染経路

ウイルスを保有しているリスやネズミ、ウイルスに感染したサルなどの動物の血液に触れることでヒトに感染します。

また、それらの肉を十分に加熱調理できていない状態で喫食した場合にも感染するおそれがあります。

感染したヒトからヒトへ、咳や痰、皮膚の病変への接触などを介して、直接感染する場合もあります。

ですが人から人への感染が連続して起きている事例は報告されていません。

天然痘の症状

天然痘の潜伏期間は7~16日(平均12日)です。

初期症状は急激な発熱(39℃前後)、頭痛、四肢痛、腰痛、倦怠感などで始まり、発熱は2~3日で40℃に達します。

小児の場合、吐き気や嘔吐、意識障害などがみられることもあります。

2~3日すると主に顔、腕、足に発疹が現れますが、全身にできます。

発疹は、少し盛り上がった丘疹から水疱ができ、それが少し濁り膿疱になり、その後乾燥し黒っぽいかさぶたになります。

かさぶたが取れたところは皮膚の色が落ち、薄くなります。

正常に戻るのには何週間もかかり、場合によっては「あばた(痘痕)」という小さなくぼみが顔に一生残ることもあります。

治癒する場合は2~3週間程度で治癒します。

かさぶたが完全にはがれるまでは感染の可能性があるため隔離が必要です。

致死率は30%以上に及びます。

感染源

1万年前には既にヒトの病気であったと言われており、インドが起源であると考えられていますが、明確にはわかっていません。

感染するのはヒトにのみで、天然痘ウイルスに感染したヒトからヒトへ直接感染します。

感染経路

感染した患者の排泄する呼気による空気感染や飛沫感染、患者の皮膚病変との接触やウイルスに汚染された患者の衣類や寝具などに触れた場合でも感染します。

ワクチン接種(種痘)を受けていないヒトでの感受性はきわめて高く、不顕性感染はありません。

治療法は?

サル痘の治療法

サル痘に対しての特異的な治療法はありません。

基本は発症した症状に応じて対症療法を行いながら自然治癒を待つのみです。

しかし、一部の抗ウイルス薬が動物実験などで有効性が確認されており、サル痘の治療に利用できる可能性があります。

シドフォビルはサイトメガロウイルスの治療などに海外で使用されている抗ウイルス薬ですが、動物実験でサル痘への有効性が確認されています。

ブリンシドフォビルも同様に動物実験での有効性が確認されており、シドフォビルよりも有害事象も少ないと報告されていあすが、日本国内ではほぼ流通していません。

テコビリマットも動物実験でオルソポックスウイルス感染症に有効であることが確認され、ヒトに対しての安全性も確認されています。

アメリカでは天然痘に対する使用が承認されており、サル痘に対してはIND(Investigational New Drug=臨床試験の研究用として認めた薬)としての使用が可能です。

欧州では天然痘、サル痘に対しての使用ともに承認されています。

日本国内ではブリンシドフォビル同様に流通しておらず、日本以外のほとんどの国では使用ができません。

天然痘の治療法

サル痘同様に天然痘に対しての特異的な治療法はありません。

基本は発症した症状に応じて対症療法を行いながら自然治癒を待つのみです。

主な対症療法は発熱による脱水が懸念されるため、水分補給をしっかり行うこと、そのほか、呼吸が困難な場合には酸素投与なども検討されます。

痛みなどの症状に対しては、鎮痛薬の処方が検討されることもあります。

日本における主な対応指針については厚生労働省のホームページから確認が可能です。

予防法は?

ここまではサル痘と天然痘の症状や感染経路、治療法について見てきました。

天然痘においては、現在感染の心配はほぼ無いとは言え、いずれも明確な治療法がありません。

そして、実際の症例の写真などを見ると正直、直視できないほどかなり痛々しいものも多いです。

本記事ではあえて症例写真は載せませんので、気になる方は「天然痘 症例」や「サル痘 症例」などで画像検索をかけてみてください。

他の感染症においても言えることですが、できればこれらの感染症には一度でもかかりたくはありませんね。

ここではそれぞれの予防法を見ていきましょう。

サル痘の予防法

サル痘に特化したワクチンはありませんが、天然痘ワクチン(種痘)に一定の予防効果が確認されています。

サル痘患者との接触者等に対し、痘そう(天然痘)ワクチンを接種する場合がありますが、1980年の根絶宣言以降、痘そうワクチンは市場に流通しておらず国家備蓄となっているため、接種機会は限られています。

流行地に滞在している場合は特に、リスやネズミなどげっ歯類には触らないように、またそれらの動物の肉に触ったり食べたりしないように注意する必要があります。

天然痘の予防法

日本では昭和51年に種痘が中止されていますが、バイオテロなどで万が一患者が発生した場合は、国家備蓄ワクチン(種痘)を患者とその接触者に接種します。

ただし、感染後4日目程度ぐらいまでに接種しなければ有効性はないとされています。

まとめ

サル痘と天然痘はどちらもどちらもオルソポックスウイルス属の一種であり、発症後の症状も類似していますが、サル痘は主にげっ歯類など動物からヒトに感染し、天然痘はヒトからヒトへ感染します。

また、天然痘は1980年に根絶されたとされており、以降の発症は確認されていませんが、バイオテロとして用いられる可能性が懸念されています。

サル痘、天然痘ともに特異的な治療法はなく、対症療法をとりながら自然治癒を待つしかありません。

いずれも予防法としてはワクチン接種(種痘)が有効であるとされていますが、ワクチンは根絶宣言以降、市場に流通しておらず国家備蓄となっているため、接種機会は限られています。

その他でサル痘にかからないためにはリスやネズミなどげっ歯類には触らないように、またそれらの動物の肉に触ったり食べたりしないように注意するのが主ですが、昨今の欧州を中心とした感染拡大ではげっ歯類からの感染とは考えにくい部分もあります。

今回、感染が広がっていることについて、WHOやECDC(ヨーロッパ疾病予防管理センター)は、「密接な接触によって誰もが感染する可能性がある」としたうえで、これまでの追跡調査で確認された患者の多くについては、男性どうしでの性的な接触があったとしています。

また、一部の専門家は欧州各地で開かれた大型イベントを介して感染が広がった可能性を示唆していて、今後夏に向けてこうしたイベントが増えるとみられることから各国は注意を呼びかけています。

一方で、感染経路が特定できない、いわゆる「市中感染」とみられる患者や、女性の患者も確認されているとして、特定のグループの人々の病気としてとらえずに、警戒すべきだとしています。

そして、WHOは症状が出ている人はすぐに検査を受け、他人との密接な接触を避けて、医療機関にかかるよう呼びかけています。

2022年6月現在、日本国内での感染者は確認されていませんが、海外(特に欧州)から帰国された方は特に注意してご自身の経過を観察するようにしてください。

また、万が一身近にサル痘感染者が出てしまい、看病や身の回りの手伝いが必要な場合には、マスクやゴム手袋の着用をはじめ、なるべく肌の露出の無い服装で、飛沫や皮膚の病変箇所には触れないようにすることが大切です。

サル痘感染者の衣類に触れる際も同様に注意し、洗濯は分けて行う方が良いでしょう。

以下の記事では感染症の感染経路や感染予防策についてまとめています。

あわせて参考にしてみてください。

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この記事を書いた人

コロナ禍の真っただ中で第一子を迎えた事を機に、家族を守っていくためにも感染症や感染症対策についての知識をつけていくことの重要性を痛感しました。
医療従事者の妻から意見を得たり、専門書籍や医療機関の発信情報などを漁り、日々感染症への理解を深めています!

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